−国際フリースクールICANの活動主旨は?
私は1990年にALT(英語指導助手)として来日し、新潟県中頸城郡大潟町の中学校に4年間勤めました。その経験の中で、日本の教育のベースが、テストで子どもを評価すること になってしまっていて、『子ども達の気持ちや考え方を引き出し、自己認識を高める』という要素に欠けていることに違和感を感じました。
ICANは、そうした環境にいる子ども達が、自由に自分の考えや思いを話し、皆と楽しく過ごせる「放課後クラブ」として始まったのです。
しかし、この地域でも、少しずつ 不登校問題 が社会問題となってきました。学校に行かない子は、ダメな子、問題・欠陥がある子、病気などの偏見があり、そうした誤ったレッテルを貼られてしまった子ども達を、どうしても救いたかった。
そこでICANは、"不登校の子ども達が、安全・安心に過ごせる場所"として、生まれ変わったのです。
子ども達から、自分の気持ちや考え方を引き出すには、まず、不安を感じずに過ごせる環境が必要です。
大人たちが決めたルールで、最初から子ども達を縛り付けたり、また何かで友達同士を競わせれば、子どもは不安を感じるもの。ですから、ICANでは、子ども達の考えややりたいことを大切にしています。
−基本的には、放任主義なのですか?
いえいえ、そこの壁に貼ってある『6つのルール』がありますよね。
あれは、子ども達が、自分達で決めたルールなんです。自分達で決めたルールだから、きちんと守らざるを得ない(笑)。でも6番目だけ、ちょっと厳しいかな…
チャールズ・ストラットン氏:NPO国際フリースクールICAN 専務理事
丸山敏広:Simple-HP サイト企画責任者
昼間のデイ・プログラムは、ミーティングから始まります。
私からの連絡事項を伝えるだけでなく、そこで、子ども達がやりたいことを言ってもらいます。ただ、日本の子ども達は、共通して 自分で考えることに慣れていない 気がしますね。
今デイ・プログラムには12-13歳の子ども達が来ているのですが、「何がしたい?」と聞いても、なかなか返事が返ってこない。アメリカの子ども達なら「あれがしたい、これがしたい」と手が付けられないくらいなのに(笑)。
親や学校の先生に、「あれをしなさい」、「これをしなさい」と言われ、その通りにすることに慣れてしまったせいであるように感じます。
「自分で考えて行動する」ということが、なかなか出来ない。私から見ると、今の子ども達は、 Lazy Thinking (考える事を面倒くさがる)のようにも映ってしまいます。
−そういう時はどうされているのですか?
私から、いろんなことを提案しています。
「あれはどう?」「これはどう?」って。
子どもが夢中になれるもの、その中で達成感を感じることができるものをイベント的にやろうとしています。
その一つに、山登り があります。
みんな、山登りなんて慣れていないから、とても大変。でも、一つの山を、皆で励まし合いながら上る。
山登りの良いところは、頂上に着いた時に 達成感 を感じることが出来ること。
自分の努力が実を結び、その『成功』を喜ぶことが『達成感』なのです。それを味わえれば、それが、その子の『自信』となり、次の『やる気』に繋がるのです。
ICANから普通の学校に戻った子ども達もいます。でも、学校に戻ったから「バンザイ」なのではなく、自分がやりたいことを見つけ、それに向かって歩み出したことが、私にとっては「バンザイ」なのです。 そのやりたいことが、別に 学校 でなくてもいいんです。
−チャーリーさんから子ども達に教えたいと思っていることは?
セルフエスティーム と言って、日本語では「自己肯定感」とか「自己重要感」と訳すことができます。
セルフエスティームを育むには、まず
1)不安を感じない環境が必要になります。その中で
2)自分を知ること、つまり、自分の気持ちや自分の考えを持つことがとても大切です。そして、
3) 自分に気持ちや考えがあるのと同様に、他の人にも気持ちや考えがあることを知り、それを尊重することを学びます。
それが「他人を知る」ということです。また、4) 人間が行なうことには必ず 目的 がありますので、その目的を正しく把握・理解することもセルフエスティームの大切な要素です。そして最後が 5) 自身の成功を感じて、素直に喜ぶことです。先ほど、『山登りの話』で触れましたが、達成感を感じることは、自信と次へのやる気に繋がるのです。
このセルフエスティームを、子ども達に教えていきたいと思っています。
−活動をしていて"難しい"と感じることは?
子ども達の やる気 を引き出すことが、年々難しくなってきています。すごく難しい。皆が楽しめるようなイベントを用意しても、なかなか乗ってきてくれない。何でも経験すること、やってみて、うまくいった/失敗した、面白かった/つまらなかったと感じる 機会 を持つことが、自分を知る上で、とても大切なのですが、何かすること自体を『面倒くさい』と感じてしまっているのか、私の伝え方が足りないのか、結構苦労していますね。
《丸山》 今は少子化が進んだことやTVゲームなどが普及したことで、子ども達は一人遊びに慣れてしまっています。それが、「他の人に合わせて何かをする」、「複数の人達と一緒に行動する」ということを苦手にしてしまっているのだと感じます。
《ストラットン氏》 そうですね。あともう一つ大きな原因があると私は思います。
それは、社会全体が 便利 になり過ぎている ことです。
以前、「みんなで畑でキュウリを作ろう!」と提案したのですが、「そんなにキュウリが食べたいのなら、裏のスーパーは24時間開いてるから、そこで買ってくればいいじゃん」という返事が返って来ました。
「キュウリ食べる為に、わざわざ土を耕すのは面倒くさい」と(笑)。
今の社会は、欲しいものがすぐ手に入る社会になっちゃっている。だから、お金さえあれば、努力しなくても生きていける社会になっています。それが「やる気」のなさに繋がり、子どもに何かを 挑戦 させることを、難しいものにしてしまっているような気がします。
−活動をしていく上で障壁となっていることは?
子ども達にとって、ICANという空間が存在することは、とても大事なことです。
しかし、ICANは、営利目的で活動しているわけではないので、理事の方は皆それぞれに別の仕事をせざるを得ません。
ICANの現場にいるのは基本的には私1人だけ。その私も、ICANの運営をする傍らで、英語塾で講師をして生活費を稼いでいます。
もし、ICANに 経済力 があって、スタッフを雇うことができれば、市から委託事業を受けたり、子供の教育に関して更に活動範囲を広げたりとパワーアップすることができるのですが、スタッフが雇う余裕はない為、私1人ができる範囲のことしか出来ません。以前ボランティアスタッフを集ったのですが、完全無償でのボランティアとなると、なかなか人を集めるのは難しいのが現状です。やっぱり学生さんも、ボランティアより飲み会の方が楽しいですからね。私だって学生ならきっと飲み会 を選択すると思いますし(笑)。
−活動をしてきて嬉しく感じたことは?
今日もあったんですよ。
丸山さんが来る前に、元ICANのメンバーのお母さんから「ICANがなかったら、今頃娘はどこで何をしていたか分かりません。これからも頑張って下さい」という電話をもらいました。そうした言葉をもらうと、私も またがんばろう! って感じるんですよね(笑)。
それと、今でも忘れられないのが、今から10年くらい前の話なのですが、当時、精神的に大きく傷ついているだけでなく、自分で自分の体をワザと傷つけるほどになってしまった女の子がいました。ある夜、用事があってICANの教室に私が来たとき、その子が教室で寝ていたんです。家を飛び出して、帰る場所がないからって。
でも、その女の子が成長して大人になり、ステキな人と出逢って、結婚式に呼ばれたのですが、その子の キレイな晴れ姿 を見た時は、もう言葉が出ないくらい嬉しかったですね。ICANやっていて良かったって。
−さいごに
不登校の子ども達は、決して問題児でもダメな子でもありません。
学校に行っている子ども達と変わらない、ごく普通の子ども達 です。
ただ、学校の中の競争環境や管理環境、また、そうした環境が生み出してしまってた、子どもたち同士の人間関係に馴染めないだけです。私は、今の学校教育を否定するつもりはありません。ただ、『フリースクール』や『ホーム・エデュケーション』といった選択肢を、教育システム として確立させ、子ども達に用意してあげる必要があると思っています。
In the future, I want I CAN, and other free schools, to be a viable alternative to traditional education in Japan. When some nosy auntie asks, “Why aren’t you in school?” I want our children to proudly say, “I go to I CAN.”
― 将来、I CANや他のフリースクールが日本の公学校に代替するものとなって欲しいと願っています。
「なんで学校に行かないの?」という質問を受けた時、I CANの子どもたちが、誇りを持って「私はI CANに通ってるよ。」と言って欲しいのです。
■ 国際フリースクールICAN ホームページ:http://www.freeschoolican.com/
○ 取材日記(Simple-HPより) ○
まず、日本の子ども達の為に日々頑張ってくださっているストラットン氏に、心から感謝の気持ちと熱いエールを送りたいと思います。(このサイトを読んでくださっているユーザーの方にも、是非、国際フリースクールICAN に応援メールを送っていただければと思います。)
そしてこの度、ヤシノミ洗剤でお馴染みの サラヤ株式会社 様からの広告料支援により、国際フリースクールICANに運営資金協力をすることができましたことをご報告します。Simple-HPより、この場を借りて、改めてサラヤ株式会社様 にお礼を申し上げます。