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母から学んだこと(2/2) 社会 東京都 会社員 TOMINAGA 2009.11.11

母にゴメンと謝ると、

「お店閉めたら話があるから」

とキツい口調で言われた。

その日の夜、
僕は母のところに行き、

「杏仁豆腐代、全部払うよ」

と言ってまた謝った。

昼だけで150食以上出るから、
原価で計算すると、1万円ほど弁償しなければならない。

ちょうど1日のバイト代が吹っ飛ぶ計算。

でも、「自分が撒いたタネ」だと思って腹をくくった。

私の言葉を聞いた母は、あきれた顔をして

「あんた分かってないのね。
 うちの店が今日失ったのは、杏仁豆腐なんかじゃないのよ」と言った。

その顔は今まで見たこともないような怖い顔だった。

「今日クレームをつけたお客さんたちはね、
 急きょ杏仁豆腐を出したところで、
 気持ちよく帰ったわけじゃないことぐらい分かるわよね。

 "あの店は客を差別する店"

 という不愉快な気分のまま帰ったのよ。
 二度と戻ってこないかもしれないお客さんをあなたは作ったの。分かる?」

確かに母の言う通りだと思った。

「そのお客さんたちは、近所や知り合いにうちの店の悪口を言うの。
 "あの店は、客の容姿で出す料理を増やしたり減らしたりする"って」

何も言い返せなかった。

「逆に、そんな出来事を知らずに杏仁豆腐を食べたお客さんは、
 うちのランチには、サービスで杏仁豆腐がつくって思って帰った人もいるわよね。
 明日からどうすればいい?また杏仁豆腐付ける?その分もあんた持つ?」

黙ったまま母の話を聞くしかなかった。

そして突然の解雇通告。

「とりあえず、あんたは今日でクビ。
 他の従業員の迷惑になるからね」

「え?」

「小さな店も大きな店も、客から信用を失えばやってけないのよ。
 その信用を作るには10年掛かるの。
 でもその信用は、わずか1秒では失うの」

「・・・」

「店の売上が減れば、従業員の給料に影響し、みんな生活に困るのよ。
 あんたは、"小遣い稼ぎ"のアルバイトだから、店が潰れようと
 関係ないだろうけど、従業員にとっては死活問題なの」

「・・・」

「お父さんも私も、店の中ではあなたの”親”である前に、”経営者”だから。
 だから、お店の利益、従業員の生活を守る義務があるの。覚えておきなさい」

親から"クビ"の宣告をされてからもう7年が経つ。

しかし、あの時母から学んだことは、その後の僕の「仕事に対する姿勢」として
今も胸に刻まれている。

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