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ラベンダー翡翠 (5/6) ≪ちょっと泣ける≫ 東京都 会社員 清水佳織 2010.04.20

「叔母は、あなたのお父様から手紙をもらったんです。
 あなたが原宿で個展を開くからって」

最初、叔母は一人でこの画廊に来たこと、でも受付に座る沙織さんの姿を見て、中には入れなかったことを私の口から伝えました。

黙ってその話を聞いていた

沙織さんでしたが、心境は複雑だったのだと思います。

「父から手紙をもらったから? だから何なんですか?
 お母さんに逢いたくて仕方なかった子どもの頃に逢いに来てくれなかったくせに、
 どうして今になって私の前に現れるんですか?」

さっきまで優しい声で絵の説明をしてくれた女性とは別人のようでした。

「私がどんな思いでこの絵を描いてきたか分かります?
 泣きながら母親の絵を描いてきた娘の気持ちなんて分からないでしょ!」

奥の騒ぎが耳に入ったのか、
スタッフの方が「大丈夫ですか?」と駆けつけてきました。

「個展の邪魔をして欲しくないので、このまま帰ってください!」

沙織さんの厳しい言葉が叔母に向かって投げられました。

力なく立ちあがり、入口へと歩き出した叔母。

― え!?これで終わっちゃうの? こんな終わり方でいいの?

私は叔母に付いて行くべきか、そこに留まるべきか迷いました。

この場を去れば、二人はもうこれっきりになってしまう…

私はなんとか空気を変えたい一心でその場に留まり、
叔母の背を見送る沙織さんに話し掛けました。

「翡翠(ひすい)は、
 災難や事故から身を守ってくれる魔除けの力があるんです。
 叔母はきっとそれを知っていて、沙織さんに持たせたんですよ」

「魔除けの石をわが子に与えたら、捨ててもいいんですか?
 こんな石、あなたにあげるわ」

沙織さんはペンダントを乱暴に外すと、
私に突き出しました。

それを見て、思わず沙織さんのことを平手打ちをしてしまった私。

「叔母はあなたを捨てたわけじゃないですから。
 あなたが1歳になった日、あなたのお婆さんに無理やり取り上げられたんです!」

タブーな話かもしれないことは分かっていました。

でもその時の私に余裕などなく、
叔母から聞いていた話をそのまま沙織さんに伝えました。

「あなたを奪われた日、叔母は自殺を考えたそうです。
 でもそれを思い留まらせたのは、あなたのお父様が
 “いつか必ず娘に逢わせるから”と言ってくれたからなんですよ。
 分かります? 叔母は今日この日の為に生きてきたんです」

私は泣いていました。

泣きながら沙織さんに訴えていました。

「このままお母さんを帰しちゃっていいんですか!」

その声が沙織さんの耳に届いたのか
沙織さんは、叔母の歩いて行った方に向かって走り出しました。

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