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ラベンダー翡翠 (2/6) ≪ちょっと泣ける≫ 東京都 会社員 清水佳織 2010.04.12

「その個展が開かれているギャラリーにね、
 実はこの間一人で行ってきたの。
 でも・・・中には入れなかった」

表の通りから、ギャラリーの受付に座る若い女性の姿が見え、それが自分の娘だとすぐに分かったそうです。

「一般のお客さんと同じように
 サラっと中に入って、サラっと出てくる
 つもりだったけど、でも娘の姿を見たら
 ただただ涙が溢れちゃってね」

その時のことを思い出したのか、
叔母の目は潤んでいました。

「土曜日、叔母さんにつき合うよ。
 ―っていうか、その人って私のいとこでしょ。私も逢いたいし」

私はそう即答しました。

「本当?ありがとうね、佳織。
 変なことに巻き込んじゃってごめんね」

叔母が娘さんと逢うのは、28年ぶりなのだそうです。

私より4つ年上のお姉さん。

「ねぇ、名前は何て言うの?」

「沙織っていうの。もし、改名してたりしなければね。
 生れて一年後には娘と離れ離れになることが分かってたから、
 どうしても私の名前の一文字を入れたかったの。
 もちろん、向こうの家は嫌がるだろうけど、
 若かったあの頃の私にとって、それが最後の抵抗だったのよね」

叔母の名前である"沙世"の沙を取って"沙織"。

ちなみに私の母(叔母の妹)は"佳世"なので、
(それで私は"佳織"になったのかな?)と思いました。

「もしかして、だから私は"佳織"なのかな?」

「それは分からないわ…。
 でもね、佳世は何でも知っているの。
 私が娘を生んだ時も、育児をしている間も、
 そして向こうのお義母さんが娘を迎えに来た日も、私のそばにいてくれたから」

初めて聞く話。

でも、その話から私の名前は間違いなく
沙織さんの名前を意識して付けたんだろうなと感じました。

仲の良い叔母たち姉妹。

「佳織がね、4年間私の家から大学に通うことが決まった時は、
 実の娘と一緒に暮らせるようで本当に嬉しかったのよ」

そして4年後の大学の卒業式の日、叔母がうちの母に電話で

「佳世、本当にありがとうね」

と泣きながらお礼を言っていたのを覚えています。

(お礼を言うべきは母の方なのに…)

と私は当時とても不思議に思ったのですが、
今叔母の話を聞いて あの時の会話の意味が分かったのでした。

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