ビッコの母
ビッコの母 | ≪ちょっと涙≫ | 千葉県 | 中学3年 | みか | 2009.03.23 |
歩く時、母は左足を引きづって歩きます。
私がもの心付いた時にはもうビッコでした。
そんな母が格好悪くて、
「違う人がお母さんだったら良かったのに…」
と幼い頃からずっと思っていました。
家族で買い物に出かける時は、
母と一緒に歩くのが嫌で、
いつも妹と二人で母から離れて歩くようにしていました。
― 中学の卒業式に、お母さんが来なければいいのに・・・
私はそんな風に思っていました。
先週、私の卒業式の為に田舎のお婆ちゃんが我が家にやって来ました。
「卒業祝いに美佳に服さ買ってやるべ」
と言って家族で買い物に出かけた時のこと、
買い物の際中、母が近寄ってくると私はスッと離れ、
母がまた寄ってくるとスッと離れる姿を見て、
お婆ちゃんは感じるものがあったのだと思います。
買い物が終わって家に帰ると、お婆ちゃんは
「ちょっくら話でもすんべ」
と言って私の二階の部屋までやってきました。
お婆ちゃんと二人きりなんてはじめてのことで、
何の話をするのかなと思っていたら、
「なして、お母さんのこと避ける?喧嘩しとるんか?」
と聞かれました。
私は首を横に振り、「ビッコで格好悪いから」と答えました。
「美佳は、なしてお母さんがビッコだか知らんのか?」
と聞かれたので、私は「交通事故か何かでしょ」と答えました。
お婆ちゃんは立ち上がり、窓を開けて下を覗き込むと、
― 美佳は、こっから飛び降りること、できるか?
(そんなの無理に決まってるじゃん)と思いつつ、私は黙っていました。
― 美佳のお母さんはな、3階の窓から飛び降りたんだよ
それからお婆ちゃんは、私がまだ二歳だった頃の話をしてくれました。
当時住んでいた団地で、深夜に2階の部屋から火災が起こり、
逃げ場を失った母は 二歳の私とまだ一歳にもならない妹を
布団に巻いて両手に抱かえ、3階の窓から飛び降りたのだそうです。
「足首と膝を複雑骨折してな、それでもお前ら二人のことをしっかり抱いてた。
そんなお母さんが格好悪いか?」
初めて聞く話で、私はとても驚きました。
― 少し考えれや
そう言って、お婆ちゃんは私の部屋を出ていきました。
一人残された私は、自分がこれまで母に対して思ってきたこと、考えてきたことを深く反省しました。
そして夕飯の時、呼ばれてテーブルについていただきますをすると、私は母に、
「お母さん、絶対に卒業式に来てね」
と伝えました。
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